犬のマダニによる感染症と対処法

マダニが犬についた際の対処法

「あれ?なんかイボみたいのができてる」。愛犬を見た時にそう感じてよく見てみたらパンパンに膨れたダニだった…こんな経験をお持ちの人も多いのではないでしょうか。

いつの間にか付着し、いつの間にか膨れ上がっているダニ、「うちの犬の血をこんなに吸いやがって」と腹立たしさを感じつつ引きはがそうとしてしまいがちですが、それはちょっと待ってください。

ダニが愛犬についているのを見かけた場合の正しい対処法というものが存在し、力任せに引きはがすのは避けるべきなのです。

ダニがもたらす怖い病気やその予防方法、付いてしまった場合の対処法など詳しく紹介していきます。

    目次
  1. 犬に付着するマダニって何者?
  2. マダニが媒介する感染症
    1. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
    2. ライム病
    3. バベシア症
    4. 日本紅斑熱
    5. Q熱
  3. マダニが付いてしまった時の対処法
  4. 自力でマダニを取る方法
    1. ワセリンやクリームを使う
    2. ピンセットで慎重に除去する
  5. マダニの付着を予防する方法は?
  6. 犬につくマダニのまとめ

犬に付着するマダニって何者?

「ダニ」というと、布団やソファなど家の中のいたるところに存在するイメージがありますよね。死骸がアレルゲンであるハウスダストになることもあり厄介な存在でもあります。

これって犬にいつの間にかくっついているマダニと同じ存在なのでしょうか? 答えはNOです。

主に家の中に生息するダニも犬につくマダニも同じダニの仲間ですが、イエダニは血を吸うことはありません。一方のマダニは動物の血液が唯一の栄養源であり、成長や産卵のために吸血します。

どうやって犬にくっつくのか?

マダニは基本的に屋外の森林や草地に生息しています。

草の先などで待機し、近くを通りかかった動物の体温や呼吸による二酸化炭素、振動などを感知し乗り移ります。最も活発に活動する期間は春から夏にかけて。

愛犬を草むらで散歩させるという場合は要注意。

マダニが媒介する感染症

マダニが媒介する感染症

マダニは様々な病原体を保有している可能性があり、マダニに噛まれることによって何らかの感染症にかかってしまうことも。それは犬のみにらず人間も重篤な症状を引き起こすことがあります。

マダニを介する感染症の中でも代表的なものに関して、犬と人間の症状がどういったものか見ていきたいと思います。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)がマダニが介する感染症として知られるようになったのは2011年。最近になって認知されるようになった症状といえます。

人間がSFTSの病原血を持っているマダニに噛まれることで発症すると見られていますが、ペットと濃厚な接触を行っている場合、犬や猫から感染する可能性も取りざたされています。

犬や猫に感染した場合の多くは無症状。まれに発熱や白血球減少、血小板減少などが見られます。しかし問題になるのは人間への感染です。

マダニを介してSFTSウイルスが人間の体内に入ると、5~14日の潜伏期間を経て38~41℃の発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感、消化器などの症状が現れ、血小板減少、白血球減少、最悪の場合多臓器不全によって死に至ります。

人間の致死率は30%前後と非常に高く、有効な治療法も確立されていないため、マダニに噛まれないようにする以外に主だった対策はないのが実情。

ライム病

ライム病はマダニを介する病気として広く知られる存在で、犬と人間どちらにも感染する人畜共通感染症。

SFTS同様犬に感染した場合はこれといった症状が出ない不顕性感染が大半を占めます。稀に何らかの症状を呈するケースでは発熱や関節炎、食欲不振などが挙げられます。

人間に感染した場合、数日~数週間後に刺咬部を中心とした紅斑が現れるケースが多く、筋肉痛や頭痛、発熱、倦怠感など風邪やインフルエンザのような症状が出るのが特徴。

その後病原体が全身に拡散するにしたがって皮膚や神経、心臓、眼など様々な異常が現れることに。

感染後数ヶ月~数年になると様々な慢性疾患が現れます。慢性関節炎や慢性脳脊髄炎、慢性の皮膚疾患といった症状が現れ、場合によっては顔面神経麻痺など神経に異常をきたすことも。

ちなみに、ライム病はあくまでもマダニを介する病気であり、犬から人間に直接感染することはないとされます。

抗生物質の投与など治療法はある程度確立されているものの、必ずしも感知するというわけではありません。慢性化した後では症状が残る場合も指摘されているため、早め早めの治療が必要になります。

バベシア症

マダニによって犬の体内に入っがバベシア属の原虫が赤血球に寄生することによって発症するのが「バベシア症」です。

バベシア症の典型的な症状は貧血や発熱、黄疸など。「ビリルビン尿」という茶褐色の尿が出るのも特徴。重症化すると多臓器不全などにより死に至る場合も。

治療薬とされる薬は存在するものの完治は困難で、一時的に良化したとしても再発が非常に多い疾患。予防薬も存在しないことから、森林や草むらに連れていかない、定期的にマダニ駆除薬を使用するなどの対策が重要になります。

余談ですが、人間がバベシア症に感染することはありません。

日本紅斑熱

日本紅斑熱はマダニを介し犬、人間共に感染する病ですが、犬に感染しても症状が現れることはないとされます。

ヒトに感染した場合は2~10日の潜伏期間を経て39℃を超える発熱や頭痛、悪寒戦慄などが見られ、名前の通り顔や手足、手のひらなど全身に多くの紅斑や発疹が出現しますが、痒みがないという特徴があります。

テトラサイクリンやニューキノロンといった抗菌薬での治療により治癒が見込めるものの、少ないながら死亡例も報告されています。

Q熱

Q熱はマダニによって犬に感染する感染症のひとつ。多くの場合は症状を示さない不顕性で、稀に軽い発熱を示す程度とされます。しかしこの感染症の怖いところは感染した犬や猫の糞便などを経由し人間に移行する点。

感染した犬自体は症状を示さないが、糞便や乳汁から長期間にわたって病原体を排出し、その粉塵などをヒトが吸入することによって感染します。

人間がQ熱に感染した場合の症状は発熱や関節痛、倦怠感などインフルエンザに似た症状、気管支炎、肺炎、肝炎など様々な症状を引き起こし、重症化すると死に至る可能性も。

人間の治療はテトラサイクリン系やニューキノロン系の抗生物質を使用します。ほとんどの場合不顕性である犬には治療の必要はないものの、人間への感染が疑われる場合はテトラサイクリンによって治療するのが一般的。

マダニが付いてしまった時の対処法

成虫のマダニは犬の体に付着して1~2週間程度で満腹になり吸血を終えます。その際の大きさは10~20mmほど。吸血する前は2~3mm程度であるため、5~10倍の大きさになり体重は100倍になることも。

満腹になったマダニは自ら離れますが、感染症のリスクを少しでも減らすためには見つけた時点で早急に取り除きたいところですよね。事実マダニが保有している病原体が犬の体内に入るにはある程度の時間を要するため、早期に取り除けば感染のリスクを減らせるのです。

しかし自分で強引に引きはがすのは避けるべき。

マダニは蚊のようにストロー状の口先を皮膚に刺して吸血していると思っている人もいるかもしれませんが、決してそうではありません。

マダニは口の先端にあるペンチのような口器を皮膚の奥にまで突っ込み、さらに接着性のあるセメント様物質によってがっちりと固着します。そのため強引に引きはがしてしまうと口器だけが皮膚に残ってしまう場合も。

口器が皮膚に残ってしまうと炎症やかゆみの原因に。そのため犬の皮膚にマダニが噛みついているのを発見した場合は直ちに動物病院に行くのがベスト。

自力でマダニを取る方法

マダニを自力で取る方法

しかしはっきり言って動物病院に行くのは面倒。夜だったり忙しくて時間が取れなかったりして、自力で取り除いいてしまいたいと考えるのが自然なのではないでしょうか。マダニを自力で取る方法をいくつか紹介しましょう。

ワセリンやクリームを使う

マダニに噛みつかれてからそれほど時間が経っていないのであればワセリンやクリームなどを使用した除去法がおすすめ。

これはマダニを含め噛みつかれた部分にワセリンなどを厚く塗り、30分程度放置するというもの。これによりマダニが窒息死し簡単に除去することができるのです。

家にワセリンが存在しない場合はメンソレータムなどの軟膏や化粧品などクリーム状のものでも構いません。

ただし、吸血が始まってからすでに数日が経過している場合はこの方法を用いても取れない場合があります。そういった時は素直に皮膚科を受診したほうがいいでしょう。

ピンセットで慎重に除去する

ピンセットを使用しマダニの口器をはさみ、ゆっくりと回転させたり揺らしたりしながら慎重に引き抜く方法。できる限りマダニの根元をはさむのがポイントです。

医師も鉗子(ハサミのような形をした物を掴む器具)を使用して除去することが多いため、正しい手順で慎重に行えば自力で取り除ける可能性が高まります。


これらの方法を用いても取り除けない、もしくは口器が残ってしまった場合はできるだけ早く皮膚科を受診してください。

マダニの付着を予防する方法は?

愛犬や私達に様々な病気を媒介するマダニから身を守る予防法は大きく分けて2つあります。「マダニを付けないこと」「感染症になる前に除去すること」です。

マダニが生息していそうな場所は避ける

マダニは森や林、草原、畑など、自然豊かな場所に多く生息しています。そして葉の先などで寄生する動物が通りかかるのを待っているのです。

そのため愛犬がマダニに噛まれないようにするにはそういった場所を避けるのが効果的。散歩のときはなるべく市街地を歩く、草むらに入らないなど。アスファルトの上であればマダニが付着する可能性はかなり低くなるでしょう。

マダニ駆除薬を定期的に使用する

散歩で歩くのはアスファルトの上のみであればマダニが付着する可能性を大幅に減らすことができますが、それでも100%予防することは不可能です。

また、犬は基本的に土や草むらが好きな動物なので、アスファルトの上だけでは可哀相と考える飼い主さんも多いはず。足への負担を考えても土や草の上を歩かせたいところですよね。

そういった場合にマダニによる感染症を予防するには、定期的なマダニの駆除薬を用いるのが非常に効果的です。首筋に垂らすフロントラインなどが代表的ですね。

こういった駆除薬は首筋から全身に行き渡り、仮にマダニが付着してしまったとしても48時間以内に駆除します。

マダニが媒介する感染症は噛まれてから48時間以上経ってから感染することがほとんどであるため、フロントラインなどスポットオン式の駆除・予防薬を使用しておけばマダニによる感染症のリスクを大幅に減らすことができます。

犬につくマダニのまとめ

昔は屋外で飼っている犬が多かったためパンパンに膨らんだマダニを見ることは珍しくありませんでした。しかし近年は室内飼いが多くフロントラインなどの対策も普及しマダニを見る機会はずいぶん減った気がします。

だからといってマダニの脅威がなくなったわけではなく、室内飼いにもかかわらずいつの間にかダニが付いている場合も。実際私も愛犬の体についたマダニを何度か目撃しています。

どんなに注意をしていても散歩をする以上マダニの付着を100%防ぐことはできません。だからこそフロントラインなどの対策が必要になるのです。

動物病院で処方されるフロントラインプラスのほか、個人輸入を用いればジェネリックであるアムフリーコンボなどが格安で手に入ります。状況に応じて上手に使い分けてください。

マダニが媒介する感染症は愛犬が危険にさらされるだけでなく、人間にも深刻な病をもたらします。しっかりと対策をすることは飼い主の義務といえるのではないでしょうか。

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