犬種別の専用ドッグフードは必要なのか?

犬種別ドッグフードは無意味?

ホームセンターのペット用品コーナーなどに行くと様々なドッグフードが所狭しと並べられていますよね。そんな中でひと際目立つのが犬種別の専用ドッグフード。

トイプードルやチワワ、柴犬など人気の犬種をはじめ、フレンチ・ブルドッグやラブラドール・レトリーバーなど様々な犬種に向けた専用のドッグフードが存在。ついつい自分が買っている犬種の商品を探してしまいますよね。

特定の犬種専用なのですから、対象の犬にとっては最高のドッグフードであると感じてしまいがち。しかし本当のそうなのでしょうか?

色々と調べてみると、必ずしもベストというわけではないうえに、犬種別の専用ドッグフードを製造販売するメーカーの思惑が透けて見えます。

    目次
  1. 犬種によって必要な栄養は違うのか?
  2. 実は大差ない犬種専用ドッグフードの中身
    1. 実際に比べてみた
  3. 成分に科学的根拠はない
  4. 犬種別はメーカーの販売戦略
  5. 犬種別ドッグフードは必要ない

犬種によって必要な栄養は違うのか?

一口に「犬」といっても様々な犬種が存在しますよね。日本において血統書の対象となっているのは約200種。見た目も大きさも千差万別といえます。

当然ながら犬種によって遺伝子も異なり、それによって特定の疾患にかかりやすい犬種というのが存在します。皮膚や呼吸器が弱い短頭種や、ジャーマン・シェパードの膿皮症など。

こういった疾患を抑制・改善しようというのが専用ドッグフードの大きな目的のひとつとされます。アトピー性皮膚炎にかかりやすい犬種のドッグフードにアレルゲンとなる物質を使わないなどが考えられます。

関節や腰に負担がかかる犬であればグルコサミンやコンドロイチンを配合してみたり、尿路結石を発症しやすい犬種であればミネラル分を調整してみたり。

また、毛並みが美しい犬種もいれば、大きい目が特徴の犬種も。そういった特徴を際立たせたり弱点を補ったりできるのも強みとされます。そしてそれを可能にするのが犬種ごとに異なった原材料なのだと。

犬種ごとの特徴を把握したうえで栄養バランスを変えることで病気のリスクを減らし、かつ魅力を最大限引き出す…そう考えると確かに説得力があります。

それだけ考えられたドッグフードであれば犬種別の商品が高価なことも頷ける。

実は大差ない犬種専用ドッグフードの中身

犬種別ドッグフードの成分はほとんど一緒

しかし、犬種別ドッグフードの成分表をじっくり見てみると違和感を覚える。そう、犬種別と謳っているわりに成分は変わり映えしないのです。

犬種別のドッグフードを展開しているブランドの中でも特に有名かつ高価なロイヤルカナンを例にとってみましょう。

ロイヤルカナンの犬種別ドッグフードの説明を見ると、それぞれの犬種に対し様々なアプローチをしていると謳われています。

しかしこの犬種別ドッグフード、配合されている成分は完全に同じなのです。違うのは成分含有量と粒の形くらい。

実際に比べてみた

ロイヤルカナンの犬種別ドッグフードは成分含有量を変えただけ…という事実に釈然としないものを感じたため、実際にいくつかの犬種用と小型犬用のスタンダードな商品の成分含有量を比べてみました。

比較するのはその独特の体系から関節に負担がかかりやすいミニチュアダックスフンド、尿路結石が多いミニチュアシュナウザー、皮膚が弱いフレンチブルドッグに加え、体重10kg以下の小型犬用の「ミニ アダルト」です。すべて成犬用。

全成分を比較するためちょっと長くなってしまう点はご了承ください。

成分 ミニチュアダックスフンド ミニチュアシュナウザー フレンチブルドッグ ミニ アダルト
タンパク質(%) 26.0 23.0 24.0 25.0
脂質(%) 12.0 10.0 16.0 14.0
粗繊維(%) 3.9 3.2 2.3 2.3
灰分(%) 7.0 8.6 6.6 6.3
水分(%) 10.5 10.5 10.5 10.5
カルシウム(%) 0.8 0.7 0.71 0.91
リン(%) 0.66 0.56 0.6 0.8
ナトリウム(%) 0.55 1 0.4 0.4
塩素(%) 0.98 1.66 0.73 0.77
カリウム(%) 0.7 0.7 0.65 0.7
マグネシウム(%) 0.08 0.11 0.12 0.13
銅(mg/kg) 15 15 15 15
鉄(mg/kg) 183 192 186 152
マンガン(mg/kg) 58 71 79 65
亜鉛(mg/kg) 173 170 171 172
セレン(mg/kg) 0.34 0.33 0.33 0.37
ヨウ素(mg/kg) 4 5 5.2 4.7
ビタミンA(IU/kg) 33,000 32,500 32,000 23,000
ビタミンD3(IU/kg) 800 800 800 1,000
ビタミンE(mg/kg) 630 620 610 500
ビタミンC(mg/kg) 290 200 310 200
ビタミンB1(mg/kg) 29 28.4 28.1 4.2
ビタミンB2(mg/kg) 54.6 53.1 52.3 6.6
パントテン酸カルシウム(mg/kg) 155.9 152.9 151.2 34.4
ビタミンB6(mg/kg) 81.3 79.7 78.9 26.4
ビタミンB12(mg/kg) 0.14 0.14 0.14 0.07
ナイアシン(mg/kg) 542.1 528.3 521.8 43.9
ビオチン(mg/kg) 3.3 3.24 3.2 2.75
葉酸(mg/kg) 14.6 14.3 14.2 8.9
コリン(mg/kg) 2,200 2,200 2,400 2,300
デンプン(%) 34.9 38.7 33.7 35.3
食物繊維(%)/th> 7.2 7 6.8 6.5
リノール酸(%) 2.53 2.37 3.3 2.83
タウリン(%) 0.18 0.21 0.19 0.11
L-カルニチン(mg/kg) 100 100 100 50
ルテイン(mg/kg) 5 5 5 0
ポリフェノール(mg/kg) 150 150 150 0
グルコサミン+コンドロイチン硫酸(mg/kg) 710 500 1,000 0
オメガ6系不飽和脂肪酸(%) 2.74 2.56 3.57 3.05
オメガ3系不飽和脂肪酸(%) 0.84 0.64 0.96 0.62
EPA+DHA(%) 0.4 0.3 0.4 0.25
カロリー含有量(kcal/100g) 373 362 404 396

どうでしょう?

犬種別のドッグフードも小型犬用のミニアダルトも含有成分はほぼ一緒。あえていうならミニアダルトはビタミン類の含有量が少なく、かつポリフェノール、グルコサミンが配合されていないくらい。

犬種別のもの同士を比べた場合にいたっては、同じ成分の中で数字をちょっといじっただけといった印象しか受けず、これで特定の犬種に向け特別に開発されたと言われても「はぁ…」という反応しか出てこない。

実際に使われている原材料にしても同様。若干の違いはあれどメインは米や小麦、とうもろこし、肉類(鶏、七面鳥)。決まった成分や原材料の中でそれっぽく配合を変えたという感じか。

皮膚が弱くアトピー性皮膚炎などになりやすいことで有名なフレンチブルドッグやパグ専用のものでも、アレルゲンとなりうる米や小麦などの穀類を使用するなど、ちぐはぐな印象は拭えません。

2017年にアメリカで療法食と一般的なペットフードとの違いのほとんどは価格のみではないかとのことで集団訴訟が起きています。訴えられているメーカーにはロイヤルカナンの名も。

「療法食」を謳いながらも医薬品などの成分は一切使用されず、一般的なペットフードの成分を調整しただけ…これって今回取り上げた犬種別ドッグフードの問題ともろ被りですよね。

成分に科学的根拠はない

このように犬種別のドッグフードと謳ってはいるものの、その中身はほとんど変わらないという実情が見えてきます。

とはいえ若干ながら成分量を変更・調整しているのも確か。問題はそれが具体的にどの程度影響があるのかという点。それにより特定の犬種に激的な効果があるのであれば文句はありませんよね。

例えば関節などに良いとされるグルコサミンやコンドロイチン。これが多めに含まれていれば腰や関節を痛めやすいミニチュアダックスフンドやコーギーに良さそう。

また、綺麗な被毛を維持するためにコラーゲンを多めに配合したり、足が細い犬種にはカルシウムを重視したり…なるほど、何となく良さそうな印象を受けます。

しかし、現実的な話をするとグルコサミンが関節の痛みに効果があったり、コラーゲンによって被毛が美しくなったりといったエビデンス(科学的根拠)はほとんど存在しません。

そう、科学的根拠がある医薬品などの成分を使っていない以上、しょせんはサプリメントレベルの気休めにしかならないのです。

ましてや、上記の成分表を見てもらえば分かるように、これら内容量の多くは「mg/kg」…つまりドッグフード1kgに対しての量。

小型犬であれば1日100g程度しか食べません。つまり本当に微々たる差なのです。サプリメントであれば少なくともこれの数倍の量が摂取できます。だからといってサプリメントを勧めるつもりもありませんが。

効果に科学的根拠がない成分をちょこっといじっただけ。これで特定の犬種専用というのはあまりにもお粗末なのではないでしょうか。

犬種別はメーカーの販売戦略

犬種別ドッグフードは販売戦略

成分だけを見ると必ずしも特定の犬種に特化しているようには見えない犬種別ドッグフード。にもかかわらず成分を少しいじって「〇〇に最適化」と謳う理由はどこにあるのでしょうか?

その理由は簡単、メーカーの販売戦略です。

といっても、犬種別ドッグフードを展開しているロイヤルカナンやプロマネージでは、同ブランド内での一般的なドッグフードと犬種別のフードに価格差をほとんど設けていません。まあ元々が高いんですけどね。

にもかかわらずあえて犬種別のドッグフードを作って販売する…これは愛犬を溺愛する飼い主の「少しでも良いものを食べさせたい」という心理をつくため。

自分が飼っている犬種専用のドッグフードを目にした人の多くは、その商品を手に取ってどういったものなのか確認した経験をお持ちなのではないでしょうか。

ちょっと惹かれたけど値段が高いからやめたという人もいるでしょう。しかし「きっと良いものなんだろう」という印象を持ったのではありませんか?もし愛犬の体に何かトラブルがあったら使ってみようと考えたかもしれません。

飼い主にそう感じさせること…これがメーカーの思惑なのです。犬種別のドッグフードを展開することで“より犬に詳しいブランド”というイメージも確立できますしね。

一般的なドッグフードとほとんど同じ成分・原材料を使いながら、その分量を少し変え犬種別を謳う…低コストで飼い主の心理を刺激できる優れた戦略と言えます。これは前述したように療養食にも当てはまります。

…まあ、そういった戦略も訴訟大国であるアメリカあたりではツッコミの対象になってしまうようですが。

犬種別ドッグフードは必要ない

そもそも同じ犬種でも健康状態は様々。

例えばミニチュアダックスフンドは関節を痛めがちな犬種だからとグルコサミンなどを多く配合する一方、尿路結石関連のミネラルには無頓着…しかし関節には全く問題がない一方で尿路結石に悩むミニチュアダックスフンドもごまんと存在する現実があります。

そんなミニチュアダックスフンドに同犬種専用と謳うフードを与えることは適切と言えるでしょうか?

例えばアメリカ人は日本人に比べ肥満になるほど過食しても糖尿病になりにくい一方で、日本人とはレベルが違う肥満っぷりに関節を痛める人が多くなっています。

だからアメリカ人用の食事は関節に良いとされるグルコサミンやコンドロイチン、コラーゲンを多めにする一方、炭水化物は多くても構わない。アメリカ人なら皆そういた食事を摂っていれば問題ないと感じますか?

現実には太っておらず関節には何の異常もないのに糖尿病に悩まされているアメリカ人も大勢います。そんな人が炭水化物が多い“アメリカ人用”とされる食事を摂るのは意味がないどころか害になる恐れも。

犬種別ドッグフードというのはこれと同様に“決めつけの産物”ともいえるのではないでしょうか。同じ犬種でも状態は千差万別であることを忘れてはなりません。

「自分の飼っている犬種用のドッグフードだから良いだろう」という、思考が停止したドッグフード選びは避けるべき。

それならば最大公約数的な何の変哲もないフードを与えつつ、愛犬の状態に合わせた栄養や食材をその都度与えたほうがいいと私は考えます。

犬種別ドッグフード?そんなもの必要ありません。

メーカーのイメージ戦略に惑わされず、本当の意味で愛犬に合った食事を与えるようにしたいところです。

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