犬のフィラリアの症状と治療法
犬の寄生虫と聞いて多くの人が真っ先に思い浮かぶのはフィラリアではないでしょうか。犬の寄生虫の中でも最もポピュラーでありながら命に関わる非常に怖い病気でもあります。
フィラリアは犬の心臓や肺動脈に寄生するという性質上、一度感染してしまうと治療は一筋縄ではいきません。ゆえに予防が何より重要となるのです。
しかし、ついつい予防薬の投与を怠ってしまった、保護犬を引き取りフィラリアに罹っているかもしれないといった不安を抱えている飼い主さんもいることでしょう。
フィラリアになるとどういった症状が現れるのか? 治療法はどういったものなのか? フィラリアに関する様々な疑問にも答えながら詳しく解説していきます。
- フィラリアとは
- フィラリアの発症率
- フィラリアの症状
- 犬のフィラリアの治療法
- フィラリアは予防が何より大事
- 予防薬の投与期間
- フィラリア予防薬の副作用
- フィラリア予防薬の種類と費用は?
- 犬フィラリアのまとめ
フィラリアとは
犬が罹るフィラリア症とは具体的にどういったものなのか?
おそらくほとんどの人がご存知の通りフィラリアは蚊を媒介して寄生する虫のことで、正体はそうめんのように細長く白い線虫。これが数年かけて体内で成長・増殖し最終的には犬を死に至らしめます。
フィラリアの感染経路
フィラリアは蚊に刺されることによって感染する病気。ということはフィラリアは蚊の体内に住み着いているのでしょうか?
答えはNOでもありYESでもあります。
フィラリアの感染経路は極めて単純。フィラリア症の犬から蚊が血を吸うことでフィラリアの幼虫である「ミクロフィラリア」を体内に取り込み、蚊の体内において感染できる状態まで成長。
フィラリアを取り込んだ蚊が別の犬から血を吸う時に刺口から犬の体内に移動。このように蚊を介して犬から犬へ感染するのがフィラリア症の特徴なのです。
蚊を媒介し、かつミクロフィラリアは蚊の体内で寄生できる状態まで成長するも、蚊の体内で成虫になることはできず 、また蚊が寿命を迎えてしまえば体内のミクロフィラリアも死滅します。
蚊はあくまでも中間宿主であり、最終的な宿主は犬なのです。
フィラリアの一生
フィラリアが成虫になるのは犬に感染してから6ヶ月以上の期間を要し、その頃にはつがいとなり交尾、雌は犬の体内においてミクロフィラリアを生み増殖していきます。
ちなみにフィラリアの成虫は雄が10~20cm、雌が25~30cmと、かなりの長さになります。そんなものが体内で増殖するのですから何ともおぞましい。
フィラリアの寿命は5~7年。雌はその間ミクロフィラリアを産み続けるのです。そしてその犬が蚊に刺されることで他の犬に広がっていく…これがフィラリアの恐ろしいところ。
かつて外飼いの犬が主流でフィラリアの予防薬が存在しなかった時代、犬の寿命が8年程度だったのはフィラリアの寿命に連動していたという説も。
フィラリアの発症率
犬の寿命に大きな影響を与えるフィラリア症。その発症率とはどの程度のものだと思いますか?予防薬を飲ませない場合と予防薬を飲ませる場合で大きく異なります。
フィラリア症予防薬を飲ませない場合
フィラリアの予防薬を使用せず、かつ室外飼いの犬のフィラリア発症率は3年間で90~100%とされます。昔と違い外飼いの犬はずいぶん減ってきたとはいえ、現在でもたまに目にしますよね。
完全室外飼いでなくても昼間だけ外に出している家庭もあります。外にいる時間が長ければ長いほど蚊に刺される機会が増えることになり、比例してフィラリアにかかりやすくなります。
たまに「室内飼いだから予防しなくても問題ないでしょ」という飼い主さんを目にしますが、それは大きな間違い。
外飼いの犬に比べれば発症率は低くなるものの、発症する可能性は十分あります。なぜなら家の中にも蚊は入ってきますし、散歩のときは無防備な状態になってしまうから。
外から隔離された無菌室のような空間に犬を閉じ込めているという状況でもない限り、フィラリアの発症率をゼロにすることはできません。
フィラリア症予防薬を飲ませる場合
一方、1ヶ月に1回きちんとフィラリア予防薬を飲ませている場合、フィラリアの発症率はほぼ0%と思って間違いありまえせん。
チュアブル錠などのフィラリア予防薬は通常1ヶ月に1回飲ませます。作用は蚊に刺されることによって皮下に入ったミクロフィラリアを駆除するというもの。
フィラリアは血管内に寄生します。しかし蚊から持ち込まれたミクロフィラリアが皮下から血管に到達するには約2ヶ月かかります。この間にまとめて駆除しようというのがフィラリア予防薬なのです。
投薬による皮下のミクロフィラリア駆除率は100%。薬の成分自体は2~3日で体外に排出され、その後蚊に刺されミクロフィラリアが皮下に持ち込まれたとしても1ヶ月後の投薬で駆除するという形。
ミクロフィラリアが血管に移行するまでの期間がおよそ2ヶ月。一方予防薬は1ヶ月ごとに飲ませるため、1ヶ月間投薬を忘れてしまったり、知らないところで吐いてしまったりといった万が一の事態でも感染を予防できます。
ゆえに、定められた期間において飼い主が予防薬の投薬を怠るようなことがなければ、愛犬がフィラリアにかかってしまう可能性は限りなく0%に近いと思っていいでしょう。
フィラリアの症状
何らかの理由によりフィラリアが寄生してしまった場合にどういった症状が出るのかきになるところですよね。
通常フィラリアに感染し血管内で成虫になってしまったとしても直ちに症状が出ることはありません。その段階では数も少なく、心臓や肺へのダメージもほとんどないからです。
しかし、時間をかけてフィラリアが血管内で増殖し、心臓や肺、血管を傷つけるとともに、多量のフィラリアが血液の流れを阻害することによって徐々に悪影響が出はじめます。
フィラリア症の主な症状は以下の通り。
- 咳
- 散歩などの運動を嫌う
- 食欲不振
- 毛艶が悪くなる
- 嘔吐
- 貧血
- 失神
- 呼吸困難
- 腹水
- 多臓器不全
もっとも典型的かつ比較的初期から現れる症状が「咳」です。心臓や肺動脈に寄生するため呼吸器への影響が大きく、咳のほか息切れなどが顕著になり、散歩に行くのを嫌がるようになってきます。
症状が進むと血尿や下痢、嘔吐などが見られるように。お腹に水が溜まる「腹水」も特徴のひとつ。そして末期になると心臓や肺、腎臓、肝臓などの機能が失われ最終的には死に至ります。
通常犬が咳をすることはほとんどありません。予防薬を飲ませておらず、かつ咳が見られるようならフィラリアの感染を疑うべきでしょう。
犬のフィラリアの治療法
愛犬が子供の頃から毎年しっかりと予防薬を飲ませていれば、通常フィラリアが寄生してしまうことはありません。
しかし、「これまでフィラリア予防薬を飲ませてこなかった」「保護犬を譲渡してもらったためすでにフィラリア症にかかっていた」というケースもあるでしょう。
すでにフィラリア症を発症してしまっている場合、主な治療法は大きく分けて3つ。外科治療、投薬治療、対症療法になります。
外科治療
フィラリア症にかかっているとはいえ比較的体力がある、もしくは急性の症状が見られ一刻を争うような状態の場合は外科手術により直接成虫を取り除く治療が行われることがあります。
その方法は静脈から鉗子を入れ、心臓や肺動脈に寄生したフィラリアをつまみ上げるというもの。ものすごく原始的です。
術後は通常通り予防薬によってミクロフィラリアや幼虫を駆除します。
薬によって成虫を駆除する
フィラリア症の症状がそれほど進んでおらず、かつ犬にある程度体力がある場合は薬剤を注射することによって成虫の駆除が行われることも。
外科手術と違い麻酔を行う必要がなく、注射するだけとあって最も手っ取り早い駆除方法ではありますが、そこには大きな問題が。
腸内など消化器の寄生虫であれば駆除後に便として速やかに排出されますが、心臓や肺動脈という閉じられた場所に寄生するフィラリアは死後もしばらく血管内に残り続けることになります。
それでも徐々に分解されるため成虫の数が少ない場合はそれほど問題になりませんが、まとまった数が一気に死ぬと血管が詰まる恐れがあるのです。そのため駆除薬を投与した後2~4週間ほどは経過をしっかりと観察しておく必要があります。
成虫の駆虫薬はフィラリア予防薬に比べ毒性が強いため、そういった点においても愛犬に負担を強いることに。
予防薬により幼虫のみを駆除する
成虫の駆除が危険と判断された場合、予防薬によってミクロフィラリアのみを駆虫し増殖や新たな感染を抑えつつ、いま存在する成虫の自然減を待つという方法も。
とはいえ成虫の寿命は5~7年。その間に急変する可能性もあるため、注意深く見守っていく必要があります。
成虫の駆除に比べ血管が詰まりにくいというメリットはあるものの、血管内のミクロフィラリアが一気に死滅することにより血管が詰まる可能性が。このあたりは獣医師とよく相談する必要があるでしょう。
対症療法
高齢やフィラリア症末期などのりゆうで駆虫が行えない場合は、犬の苦痛を和らげる対症療法が選択されます。具体的には腹水を抜いたり、気管支を広げて呼吸を楽にしたりといった方法。
決して前向きな治療ではありませんが、愛犬の苦しみを少しでも取り除き、生活の質を向上させるために必要な対策といえます。
フィラリアは予防が何より大事
フィラリアを早期発見し外科手術や薬による駆虫によって完全に駆除できたとしても、元通りの健康な体に戻るわけではありません。それまでに負った心臓や肺、肝臓などのダメージは元に戻らないのです。
だからこそフィラリアは予防が何より大事。そして愛犬のフィラリア予防を行うも行わないも飼い主の心がけ次第。
中には「室内飼いだから大丈夫」「もしなってしまったら、そのとき治療すればいい」と考えている飼い主さんもいるかもしれません。
しかし、現実は室内飼いだからといってフィラリアを100%予防できるわけではありませんし、仮にフィラリア症を発症してしまったら治療が成功したとしても大きなダメージが残ってしまいます。
そういったリスクをほぼ100%回避できるのは予防薬しか存在しないのです。
予防薬の投与期間
フィラリア予防薬は1ヶ月に1回飲ませる薬ですが、それは蚊が発生する時期のみであり通年で行う必要はありません。厳密にいうと蚊の発生から約1ヶ月後に投薬を開始し、蚊がいなくなる時期から1ヶ月後まで続けます。
同じ地域でも動物病院によって投薬期間に若干の違いはあるものの、東京都など関東甲信の一般的なフィラリア感染時期は5~11月。投薬期間は6~12月というのが一般的。
ただし、よりマージンを取る動物病院であれば5~12月末までの投薬ということも。このあたりは獣医師に相談してください。
フィラリア予防薬の投薬期間は地域によって違う
蚊は活動できる気温がある程度決まっているため、地域によって活動期間が異なります。当然ながらそれに合わせてフィラリア予防薬を投与する必要が。
例えば北海道であれば7~11月の投与で十分である一方、沖縄県の場合は1年間休みなく投薬をする必要があります。
ご自身が住んでいる地域の投薬期間は獣医師に尋ねるか、都道府県別の感染期間や投薬期間を掲載しているサイトを参考にしてください。
フィラリア予防薬の副作用
フィラリアの予防薬は基本的に副作用が少ないという特徴があるものの、薬である以上副作用がないということはありえません。
主な副作用を挙げると…
- 嘔吐
- 下痢
- 食欲減退
- 呼吸困難
- 痙攣
- ふらつき
- アレルギー
投与してから短時間で嘔吐してしまうと予防薬としての効果を発揮しないため、再び薬を飲ませる必要があります。しかし同じものを投与しても再び嘔吐してしまう可能性も。そういった場合は獣医師に相談し別の薬に替えてもらった方がいいかもしれません。
悩ましいのは下痢。嘔吐と違い胃から腸をつうかしているため予防薬の効果はある程度出ると思いますが、消化不全のまま便として出てしまっている場合は微妙なところ。
飲んでからどのくらいの時間で下痢になったのかを明確にし、可能であれば獣医師の判断を仰ぎたいところです。
フィラリア予防薬の副作用を過剰に気にするあまり“不要論”を口にする人もいますが、軽度な副作用を恐れてフィラリアに罹ってしまっては本末転倒。仮に副作用が出たとしても投薬を諦めるべきではありません。
フィラリア予防薬は複数存在し、経口薬ではなく注射することによって1年間有効というものも。愛犬に合わせた予防法を選んであげるようにしてください。
フィラリア予防薬の種類と費用は?
フィラリア予防薬は多くの種類が存在します。タイプは大きく分けて4つ。
- チュアブル
- 錠剤
- スポットタイプ
- 注射
1つずつ見ていきましょう。
チュアブルタイプ
現在最も主流であるフィラリア予防薬がチュアブルタイプになります。おやつみたいな形をしており、ビーフ味などが付いているため喜んで食べる犬も多いことでしょう。
カルドメックチュアブルやネクスガードが有名どころでしょうか。純粋なフィラリア予防薬であるカルドメックチュアブルを動物病院で処方してもらう場合、11.3kgまでの小型犬であれば1ヶ月1,000~1,500円ほど。大型犬だと2,000~2,500円。
一方、ノミやマダニも駆除できるネクスガードスペクトラだと価格は高くなり、7.5kgの小型犬が2,500~3,000円、15~30kgで3,500円前後、30kg~が4,000円前後といったところ。
フィラリア予防薬は毎年同じ時期に同じ薬を飲ませることになるため、体重さえ把握しているのであれば個人輸入でカルドメックチュアブルと全く同じメーカー、同成分ながら半額程度のハートガードプラスを購入するのも手。
錠剤タイプ
かつては主流だった錠剤タイプのフィラリア予防薬。ミルベマイシンやパノラミスあたりを使用する場合が多くなっています。
回虫やフィラリアの予防薬であるミルベマイシンは10kgまでの小型犬で1,000円前後、20kg超の大型犬になると1,500~2,000円くらい。カルドメックチュアブルとほとんど変わりませんね。
一方、フィラリアと共にノミやダニも駆除できるパノラミスは9kgまでの小型犬が2,500円前後、18kg超の犬になると3,500円前後というのが相場に。
牛肉などで作られることから犬が喜んで食べるチュアブルタイプと違い、錠剤タイプは吐き出してしまうことも多いもの。チュアブルタイプと比べ価格が安いということもないので、錠剤を選ぶメリットはないと考えられます。
あえて錠剤を選択するとすれば、チュアブルに使用される牛肉などにアレルギーがある場合などか。
スポットタイプ
スポットタイプのフィラリア予防薬というのは、ノミダニ駆除薬であるフロントラインと同じく首筋に塗布するというもの。レボリューションあたりが知られています。
チュアブルタイプや錠剤では副作用やアレルギーがある場合でも使用できるのが大きなメリットになります。一方で体外に塗布するという性質上、内服薬に比べると効き目にややムラがあることも。
価格は10kgまでの小型犬が1回1,500円前後、20kg超の大型犬で2,500円前後。海外市場版の正規品であれば個人輸入を用いることで半額程度で手に入るので、費用を抑えたい場合はこちらを。
注射
フィラリア予防薬には1回打つだけで1年間効き続ける注射という選択肢も。
他の予防薬のように飲ませ忘れるといったことがなく、かつ1度の通院で済むというのが大きなメリット。1年に1回という性質上、蚊の活動期間が短い寒い地域では割高感があり、逆に沖縄や九州など蚊の活動期間が長い場所では割安感があります。
価格は10kgまでの小型犬が7,000~10,000円、30kgまでの大型犬であれば15,000~20,000円といったところ。
一般的に5月末から11月末までの7回使用する関東ではカルドメックチュアブルなどに比べやや割高感があります。1回で済み、飲み忘れがないという点にどれだけメリットを見出せるかで評価が分かれるところ。
犬フィラリアのまとめ
犬のフィラリア症は予防薬の普及、室内飼いの増加に伴い確実に減ってきています。しかし終息とは程遠く、愛犬のことを考えるのであれば毎年しっかりと予防することが何より重要になります。
しかし現在においてもフィラリアの予防を行わない飼い主がいるのも確か。
飼っている犬をどうするかは飼い主の自由と言われればそれまでですし、フィラリア予防薬に否定的な考えを持っている人もいるでしょう。それでも可能な限り予防薬を飲ませるべきと考えます。
フィラリア予防薬の副作用リスクはゼロではありませんが、フィラリアを発症してしまった場合の愛犬の苦しみを考えれば、選択肢はひとつしかないのではないでしょうか。
今は個人輸入を用いれば安価かつ質の高い予防薬が手に入るため手間がかからず負担も少なく済みます。愛犬をフィラリアから守ることができるのはあなただけということを忘れないでください。
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