犬の回虫症の予防法と治療法
犬の体内に住み着く寄生虫といえばフィラリアが有名ですが、実はそれ以上にポピュラーな寄生虫が存在します。それが「回虫」です。
フィラリアほど深刻な症状を呈す寄生虫ではなく、また予防法や治療法も確立されているためあまり話題に上ることはありません。しかし仔犬の場合は注意が必要な場合も。
稀にではありますが人間に感染し症状を引き起こすこともあるため、可能な限り駆除や予防をしておきたいところ。
犬回虫の予防や治療、そして人間への感染を防ぐためにはどうすればいいのか、詳しく見ていきましょう。
犬回虫の特徴
犬に感染する回虫は糸状の細長い体を有し、色は白~黄白色。成虫になると5~15cm程度の長さになります。
特徴的なのは仔犬の体内のみで成虫になるという点。様々な臓器を移動しながら徐々に成長し、最終的には小腸にて成虫になります。
一方、成犬の場合は仮に回虫に感染したとしても体内で成虫になることはありません。成犬の場合は回虫が肺移行の途上で被嚢(ひのう)されるのがその理由。そのため成犬は症状が出ることはないのです。
仔犬の頃に回虫を持っていたとしても成長するにしたがって排出され、2歳以上の犬では回虫はほとんど確認できないとされます。
ただし、1歳以上のビーグル犬10頭に犬回虫の卵を100個ずつ投与した結果、10頭すべての糞便内から虫卵が検出されたため、2歳以上の成犬においても回虫が成虫になりうるという説も。
とはいえ、一般的には仔犬において問題になるものという認識でいいでしょう。
回虫の感染経路
では回虫はどういった経路で感染するのでしょうか?主な感染経路は2つ。
母犬からの感染
成犬に感染したとしても成虫になることなく休眠状態になりますが、雌犬が妊娠し出産前になると免疫機能が低下により休眠中だった回虫の幼虫は胎盤や乳汁から仔犬に感染します。
仔犬の回虫感染はほとんどが母犬からの移行と見られます。
感染犬の糞便からの感染
もう一つの感染経路は回虫の宿主の糞便からとなります。糞便内の回虫がなんらかの理由により口に入った場合に感染するのです。
ただし、感染した犬の糞便に虫卵が存在していたとしても、その状態では感染する能力を持っていません。糞便に混じって体外に排出されてから汗腺能力を得るまでに2~3週間の期間を要します。
そのため家庭内でまめにトイレを替えている場合は問題ありませんが、散歩中などで見かける長期間放置されている犬の糞には要注意。
回虫に寄生された際の症状は?
成犬の場合、仮に回虫の幼虫が体内に入ってきたとしても成虫になることなく休眠状態に陥るため、何らかの症状を呈することはありません。
一方、体内で成虫になってしまう仔犬の場合は注意が必要です。多数の成虫が寄生した仔犬は以下のような症状が現れることがあります。
- 食欲不振
- 下痢
- 嘔吐
- 便秘
- 毛艶が悪くなる
- 貧血
- お腹が膨れる
- 元気がなくなる
母犬から移行することから仔犬が回虫に感染していることは決して珍しくありません。下痢や嘔吐、腹部の膨満などが見られる場合は獣医師の判断を仰ぐようにしてください。
犬回虫の治療法
犬回虫に感染している仔犬の治療は駆虫薬を用いて行われます。
血管内に寄生するフィラリアと違い、主に小腸に寄生する回虫の場合駆虫後に便でスムーズに排出できることから、駆除により危険性はありません。
ただし、駆虫薬が効果を発揮するのは腸管内に存在する虫体のみ。
仔犬の体内にいる幼虫は肝臓や心臓、肺、気管などを移動しながら成長し、最終的に小腸にたどり着くという性質上、必ずしも腸管にいるとは限りません。体内を移行している虫体に駆虫薬は効果を発揮しないのです。
そのため通常は2~3週の期間をあけ、複数回にわたって投薬します。
ちなみに、母犬から回虫が移行した仔犬が非常に多いことから、すべての仔犬に駆虫薬を投与することが強く推奨されています。
駆虫薬はドロンタールプラスあたりが一般的でしょうか。仔犬の段階でしっかりと回虫を駆除しておけば決して怖い寄生虫ではありません。
犬の健康を第一に考えているブリーダーやペットショップではすべての仔犬に駆虫薬を使用するのが一般的ですが、念のため使用の有無や検便の結果を確認したほうがいいでしょう。
回虫症の予防法
愛犬の回虫感染を予防する方法についても見ていきましょう。
犬が回虫に感染する経路は前述したように、母犬の胎盤や乳汁からの移行、もしくは糞便中の回虫を経口摂取した場合が主となります。
ゆえに、回虫の予防策は2つ。
- 仔犬の段階でしっかりと駆虫する
- 犬や猫の糞便に汚染されていそうなところは避ける
母犬から仔犬に回虫外交することは珍しくなく、むしろ生まれたばかりの仔犬が回虫を保有してるのは一般的とすら言える状況です。
そのため、回虫による症状を予防するには生後1ヶ月程度から検査や駆虫薬による回虫の駆除を行うべき。そういった予防策がとられたかどうか分からない仔犬を引き取った場合は早急に検査を行うようにしてください。
外の世界は回虫だらけ?
経口によって回虫が体内に入ってしまうことも主な感染源です。
駆虫を済ませた愛犬のみが室内にいる場合は問題ありませんが、散歩などで外に連れ出した際に糞便が混じりやすい砂場や古い便などを舐めたり口にしたりすることで感染してしまうのです。
また、一見糞など存在しないように見える土の上なども要注意。
回虫の成虫は1日に10~20万個の卵を産むことから、体内に成虫を保有する犬の糞便には多くの虫卵が含まれています。そういった犬が近所にいる場合はその周辺の土などが糞で汚染されている可能性があるのです。
回虫の卵は体外に排出されてから感染する能力を持つまで2~3週間かかります。その間に糞が乾燥・崩壊し土に混じってしまうことは十分考えられます。
とはいえ、散歩に行かないわけにもいかず、回虫に感染するリスクは常に付きまといます。そのため年に1回など定期的な検査や駆虫を呼びかけている動物病院も多く存在します。
現在はほとんどのフィラリア予防薬によって回虫を駆除できるため、毎年フィラリアの予防を行っていれば特に意識する必要はないかもしれません。
人間に感染するとどうなる?
犬回虫は成犬に感染しても「不顕性感染」…つまりなんの症状も現れないことがほとんど。多くは成虫にすらなれないのですから当然といえば当然ですよね。
しかし、厄介なのは犬回虫が人間に感染する可能性があること、そしてそれは稀に重篤な症状を引き起こす点。これを「トキソカラ症」と呼びます。感染源は犬の糞便や毛、あるいは回虫を保有した牛や鶏などのレバ刺しと見られます。
犬回虫は人間に感染しても体内で成虫になることはなく、またほとんどの場合は免疫反応によって休眠状態に陥り無症状。しかし体力がない幼児や高齢者の場合は注意が必要です。
体内に入った虫卵は体内で孵化、成虫になることはないものの幼虫のまま体内を移動し始めます。これを「幼虫移行症」と呼びます。
内臓幼虫移行症では主に肺や肝臓に病変が見られ、咳や呼吸困難、喘鳴、胸痛、肺炎などの症状が出る場合も。
また、回虫の幼虫は眼に移行することでも知られ、飛蚊症や眼の充血、眼痛などが引き起こされます。最悪の場合失明に至るケースもあります。
稀な例ではありますが神経に移行する場合も。その際の症状は脳炎や髄膜炎、脊髄炎をはじめ、てんかんや認知症といった報告も存在。犬を飼っている人間にとって決して無視できない怖い病気なのです。
犬回虫によるトキソカラ症の治療法
トキソカラ症の治療は、内臓幼虫移行症の場合は犬と同様に駆虫薬を用います。一方、眼幼虫移行症の場合は網膜光凝固やステロイドなどの薬物療法、もしくは外科的な対応が求められます。
トキソカラ症の治療には主にアルベンダゾールやメベンダゾールなどの駆虫薬が用いられますが、肝臓などの負担も大きいため予防が何より重要になります。
トキソカラ症の予防法
場合によっては人間に多大な悪影響を及ぼす犬回虫によるトキソカラ症。その予防方法は大きく分けて2つ。
ひとつは愛犬の定期的な検査・駆虫です。
糞便に含まれる虫卵が感染能力を持つには体外に出てから2~3週間必要であるため、その都度廃棄・清掃していれば感染するリスクは抑えられますが、万全を期すのであれば定期的に駆虫を行うべきでしょう。
そしてもうひとつは牛や鶏のレバーを生食しないこと。
近年は飲食店によるレバ刺しの提供が禁止されていますが、それでも需要は根強く様々な“裏技”を用いて提供している場合も。
しかしトキソカラ症のリスクはもちろん食中毒になってしまう可能性があるだけに、体のことを考えるのであればレバ刺しは避けるべきでしょう。
犬回虫のまとめ
犬の回虫は非常にポピュラーな寄生虫であり、特に仔犬は母犬から移行することで高い保有率となっています。
しかし、フィラリアと違い回虫の駆除は容易で、かつ成犬の場合は感染しても症状が出ることはほとんどないことから過剰に恐れる必要はありません。ただし仔犬の検査だけはしっかりと行っておきましょう。
犬回虫で最も注意すべきは人間への感染です。
場合によっては重篤な症状を引き起こすうえ、明確な治療法が確立されていないなどリスクは小さくありません。それを避けるためにはレバーの生食を避けるほか、愛犬の回虫にも留意する必要が。
回虫のコントロールは飼い主の意識次第。愛犬の健康はもちろん人間への影響も考え定期的な検査・駆虫を心がけたいところ。
カルドメックやハートガードなどフィラリア予防薬には回虫の駆虫ができるものも多いため、フィラリアの予防を徹底していれば回虫が問題になることはまずないでしょう。
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