犬の糖尿病による合併症に要注意
人間にもお馴染みの糖尿病は犬がかかってしまうことも。名前の印象により尿から糖が出る程度の病気と侮ってはいけません。糖尿病は様々な合併症を引き起こす非常に厄介な病で、最悪の場合死に至ることも。
一方で初期の段階では自覚症状に乏しく、気付いた時にはかなり進行しているというケースも多々あります。それだけに飼い主が愛犬の微妙な変化にいち早く気付く必要があるのです。
糖尿病になるとどういった症状が現れるのか、その際に行う治療法はどういったものなのか、またその費用など、犬の糖尿病について気になる点に迫っていきます。
犬の糖尿病ってどんな病気?
犬がかかる可能性がある糖尿病とは読んで字の如く尿から糖が出る病気…ではあるものの、問題はそこではありません。
糖尿病とは血液中の糖濃度…つまり血糖値が高い状態が続く病気のこと。血液中の糖を細胞内に取り込むインスリンが少ない、もしくは効きが悪いことで引き起こされます。
血液中の糖濃度が高い…糖尿病はたったそれだけの病気ですが、血糖値が高いことによって血管が傷つけられ動脈硬化が急激に進行したり、細胞内にエネルギーとなる糖を取り込めないことにより様々な合併症を引き起こしたりします。
人間の糖尿病では足の痺れから最悪の場合切断にいたる「神経障害」、視力が落ち最終的に失明する「網膜症」、腎機能が低下し人工透析にいたる「腎症」という3大合併症が存在し、犬のケースでもそれに近い症状が引き起こされます。
糖尿病は一度発症してしまうと完治は難しいのが実情。血糖値をコントロールしながら一生付き合っていく必要があります。
血糖値をコントロールできてさえいればそれほど怖い病気ではないものの、可能であれば糖尿病を発症させないよう予防していきたいところです。
糖尿病の原因
糖尿病になってしまう原因はいくつか考えられますが、大きく分けると「膵臓機能の低下」と「生活習慣」に大別されるでしょうか。
いでんや膵臓の疲弊によりインスリンを分泌する膵臓のランゲルハンス島の機能が落ちるとインスリンの量が激減し細胞内に糖を取り込めなくなってしまいます。これをⅠ型糖尿病といいます。
一方、食事や生活習慣の乱れ、運動不足、肥満などによりインスリンの効きが悪くなってしまうのがⅡ型糖尿病。インスリンの量に問題はないがそれを有効的に活かしきれない状態といえば分かりやすいでしょうか。
人間の糖尿病では95%は生活習慣などが影響するⅡ型糖尿病とされますが、犬の場合はⅠ型である場合が多いのが特徴。つまり膵臓機能の低下によりインスリンの分泌量が減ってしまうことが主な要因なのです。
だからといって生活習慣を疎かにしていいというわけではありません。犬の糖尿病の約2~3割はⅡ型。油断できる数字では決してないからです。
メス犬は糖尿病になりやすい
犬の場合オス犬に比べメス犬のほうが糖尿病になりやすい傾向にあります。特に避妊手術をしていないメス犬に多く見られるとのデータが。黄体ホルモンなどが影響していると見られています。
飼っている犬がメスである場合、肥満や運動不足により気を使いたいところ。
犬の糖尿病によって現れる症状
もし犬が糖尿病になってしまった場合具体的にどういった症状が現れるのか?
軽度の糖尿病では目に見える症状を呈することは少ないものの、病状が進行するにつれ特徴的な症状が確認できるようになってきます。
その主な症状は以下のようになります。
- 水を飲む量が増える
- 尿の回数が増える
- 目が白濁する(白内障)
- 食欲が増える
- 体重が減る
- 嘔吐
- 下痢
特徴的なものをいくつか解説しましょう。
多飲多尿になる
犬が糖尿病になった際に最も典型的な症状となるのが「多飲多尿」です。通常より水分を多く摂取し、多くの尿を排出するようになります。
その理由は体が糖を排出しようとするから。血液中の糖濃度が上がると体は正常な血糖値に戻そうと尿と一緒に糖を排出しようとするため尿量が増えます。そして尿として排出した水分を補おうと水を多く摂取するようになるのです。
この多飲多尿は糖尿病の典型的な症状です。「最近やたらと水を飲むようになった」「おしっこの回数が増えた」などが見て取れるようであれば糖尿病を疑った方がいいかもしれません。
白内障
人間の糖尿病では視力が落ち最終的に失明にいたる「網膜症」が代表的な合併症であるのと同様に、犬の糖尿病ではある程度症状が進行すると白内障が見られることも。
白内障になる原因は様々であることから、犬の目が白濁してきたからといって糖尿病とは限りません。しかし可能性のひとつとして覚えておいた方がいいでしょう。
食欲が増える・体重が減る
糖尿病になると血液中の糖を細胞内に取り込めなくなるため体はエネルギー不足と判断します。それを補うため食欲が増し食べる量が増えてしまう傾向に。
エネルギーとなる糖を細胞に取り込むことができないということは、脂肪としてエネルギーを溜めておくことができないことを意味します。そのため糖尿病が進行するとしっかり食事を行っていても痩せていってしまいます。
いっぱい食べているにもかかわらず体重は減ってきている…危険なサインと見て間違いないでしょう。
嘔吐・下痢
血液中からエネルギーである糖を取り込むことができなくなると、体は脂肪を分解してエネルギーを作り出すようになり、その際に「ケトン体」という物質が作られます。
犬の血液は通常弱アルカリ性ですが、血液中にケトン体が増えすぎると酸性に傾き嘔吐や下痢といった症状を引き起こし、さらに進行すると意識障害や昏睡に発展、最悪の場合死に至ります。
糖尿病性ケトアシドーシスはインスリンが絶対的に少ないⅠ型糖尿病において引き起こされやすい症状であることから、Ⅰ型糖尿病が多い犬は特に注意したいところ。
糖尿病の治療法
もし愛犬が糖尿病になってしまった場合に行われる治療法は大きく分けて2つ。「インスリン療法」と「食事療法」です。
インスリン療法
膵臓機能の低下によりインスリンの量が不足するⅠ型糖尿病が大半を占める犬の場合、基本となる治療は注射によってインスリンを外部から補うインスリン療法になります。
具体的には決まった時間に飼い主が愛犬に注射を行う形に。
1日に行う注射の回数やインスリンの量を決めるにあたり詳細な検査が必要になるため一定期間入院することも。
Ⅰ型糖尿病の場合インスリンを投与すれば血糖値は確実に下がるものの、下がり過ぎてしまい低血糖になるというリスクもはらんでいます。過剰な低血糖は命にかかわるため、インスリンを打った後に元気がなくなった、震えだしたといった症状がみられる場合は早急に動物病院へ。
食事療法
インスリンの絶対量が少ないⅠ型糖尿病に対し、生活習慣や食生活が原因でインスリンが効きにくい状態になっているⅡ型糖尿病の場合は食事療法も重要になります。
軽度の糖尿病であれば食事を見直し適度に運動させることで正常範囲内の血糖値に収まる場合も。こういったケースではインスリンの投与を止められることも。
食事療法は2型糖尿病に対し大きな効果を発揮しますが、Ⅰ型においてもある程度の食事管理は必要になります。なぜなら食事の量によって必要なインスリンの量が変わってきてしまうからです。
Ⅰ型にしろ2型にしろ多くの場合はインスリン療法と食事療法を併用しながら治療を行うことになるでしょう。
糖尿病の治療費は?
万が一愛犬が糖尿病にかかってしまったとして、治療費はどのくらいになるのか非常に心配ですよね。糖尿病になってしまうと基本的に一生付き合っていく必要があるだけに費用はばかになりません。
犬の糖尿病の費用、結論からいえばケースバイケースとなります。
その理由は症状の程度によりインスリンの量は様々であること、そして人間の薬のように薬価が決まっているわけではないため、同じ治療を行っても費用は動物病院によって大きく異なるためです。
また、血糖値を管理しやすいフードは高価なうえ犬の体重によって1回の量に大きな差があります。基本的には体重が重ければ重いほどお金がかかると思っておいて間違いないでしょう。
それを踏まえたうえで大まかな費用を見てみると…
インスリン注射に関しては注射とインスリン両方の費用が掛かるため、少量で済む場合で、かつ良心的な動物病院であれば1ヶ月3,000円~。ある程度の量が必要になり、かつ費用が高めの動物病院だと20,000円くらいになることも。
またフード代もかかります。病院で販売しているようなヒルズやロイヤルカナンといったフードは3kgで4,000~5,000円ほど。体重4~5kgの成犬であれば1ヶ月くらい持つ計算になるでしょうか。
一方、大型犬であれば食事代だけで1ヶ月10,000円以上の出費を覚悟しておく必要があります。もちろんヒルズやロイヤルカナンといった高価なフードを与えるのであれば…の話ですが。
これらに加えて、病院での診療代や検査費用もある程度見ておく必要があるでしょう。そう考えるとそれなりの出費になりますね。
総合すると糖尿病治療にかかる1ヶ月の費用は、小型犬であれば10,000円前後、大型犬であれば20,000円前後くらいということになるでしょうか。
基本的に完治は難しい糖尿病の場合、これを生涯にわたって継続する必要があります。これを高いと見るか安いと見るかは人によって判断の分かれるところではないでしょうか。
犬の糖尿病は予防と早期発見が大事
ここまで何度か書いているように、糖尿病は一度発症してしまうと完治はまず望めません。それだけに「発症させないこと」が何より重要になってくるのです。
私たち飼い主が行える予防策はというと、太らせないよう食事の量をコントロールすると散歩などで適度に運動させること。
とはいえ犬の糖尿病はⅠ型が大半。Ⅱ型が多い人間の糖尿病と違い予防するには限外があるのも確かです。であれば次に大事になってくるのは早期発見。
糖尿病というのは自覚症状に乏しく、傍から見ている私たちが初期の段階で気付くのは非常に困難といわざるを得ません。とはいえ尿や水飲みの回数を注意深く見ていればなんとなくおかしいことに気付くでしょう。
食事や運動量をコントロールし愛犬の行動に気を払うことで怖い糖尿病のリスクを少しでも軽減できるはず。愛犬を糖尿病の苦しみから救ってあげられるのは飼い主以外の存在しないことを忘れないでください。
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