短頭種気道症候群は命に関わる危険も
一般的な犬と違い鼻が潰れていることから「鼻ぺちゃ犬」「ぶさかわ犬」と評されるフレンチ・ブルドッグやパグなどの短頭種。特徴的な外見は大きな個性であるものの、そこにはリスクも潜在しています。
中でも鼻が潰れていることが直接的な悪影響を及ぼす「短頭種気道症候群」の存在は無視できません。なぜなら場合によっては命に関わる可能性もあるから。
本来好みがはっきりと分かれていた短頭種も、フレンチ・ブルドッグが人気になったことで一気に普及した感があります。そんな短頭種に潜むリスク「短頭種気道症候群」とはどういったものなのか詳しく見ていきます。
短頭種とは
もしかしたら「短頭種」と言われてもピンとこない人もいるかもしれませんので簡単に説明しておきます。
短頭種というのは一般的な犬に比べ鼻が短い犬のこと。代表的な犬種を挙げると…
- ブルドッグ
- フレンチ・ブルドッグ
- パグ
- シー・ズー
- ボストンテリア
- 狆
- ペキニーズ
- ブリュッセル・グリフォン
- ボクサー
- チワワ
- ポメラニアン
- ヨークシャー・テリア
- キャバリア
- マルチーズ
短頭種には明確な定義は存在せず、だれが見てもそれと分かるブルドッグやパグ、ペキニーズ、狆などがいる一方で、チワワやポメラニアン、マルチーズなどやや鼻が短い犬種も短頭種とされることも。
確かにチワワやポメラニアンなどは柴犬やレトリーバー系など一般的な犬種に比べ鼻が短い分短頭種気道症候群など呼吸器の病気にかかりやすいのは間違いないものの、ブルドッグやパグなどに比べればリスクは低いといえます。
事実、ANAなど航空会社が夏季など期間限定で実施する短頭種輸送禁止の対象となる犬種にチワワやポメラニアン、マルチーズなどは入っていません。
チワワやポメラニアンなどを短頭種と見る専門家や医師も存在するものの、短頭種気道症候群に対してはそれほど心配する必要はないでしょう。
短頭種気道症候群の症状
命に関わることもある短頭種気道症候群。その症状は軽度なものであれば呼吸時の雑音、症状が酷くなるにつれ睡眠時無呼吸や運動後の意識喪失、最悪の場合“突然死”の可能性も。
人間に例えると、気管が炎症を起こし狭くなる軽度の喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)と同じような状態といえば分かりやすいでしょうか。呼吸に関する直接的な障害に加え、熱中症にかかりやすいなどの間接的な影響も懸念されます。
“ブーブー”“グーグー”は正常ではない
フレンチ・ブルドッグやパグ、シー・ズーなどを飼っている人にとって睡眠時のいびきは日常茶飯事。安静時においてすらブーブーと鼻を鳴らすことも珍しくありません。
鼻ぺちゃ犬が好きな人にとってはその“自己主張”が魅力のひとつでもあり、普段からそれを聞き慣れている飼い主さんにとっては何の変哲もない日常になっていることでしょう。
しかし、人間もかくことがあるいびきでればまだしも、安静時にブーブーグーグーと呼吸音を出すことは正常ではありません。それは短頭種気道症候群という病気の典型的な症状なのです。
呼吸は酸素を体に取り込むという、生きるうえで絶対に欠かせない極めて重要な行動です。この過程で音が鳴るということはスムーズに呼吸が行えていないことを意味します。
普段からブーブーと音を鳴らしている短頭種は安静時ですら呼吸に抵抗があるわけですから、運動した後など呼吸が激しくなるシーンでは様々な問題が出てくるのは想像に難くないと思います。
呼吸がしづらいことによる弊害
外気温が高かったり運動したりすることにより体温が上がった場合、犬は人間のように汗による体温調整ができません。汗腺が発達していないため肉球以外の部位で汗をかくことはないのです。
そのため犬の体温調整の主役は「パンディング(あえぎ呼吸)」。舌に集めた熱い血液に息を当て唾液の気化熱によって体温を下げます。
そう、体温を下げるための呼吸が上手に行えないフレンチ・ブルドッグやパグなどの短頭種は熱に弱いのです。短頭種の犬を飼う際には多くの場合「暑さに弱い」という説明を受けると思います。それは呼吸による体温調整がうまくいかないから。
それは運動時も同様。エネルギーを消費することにより熱が発生し、かつ多量の酸素が必要になる運動後は当然呼吸が荒くなりますよね。短頭種気道症候群の犬がそういった状況に置かれたら危険であることは想像に難くないと思います。
同じ鼻ぺちゃ系の犬種でも普段からブーブーグーグーと呼吸をしている個体もいれば、まったく音を出さない個体もいます。この中で短頭種気道症候群である犬はもちろん前者。
そういった犬は呼吸に関連することすべてにリスクがあると認識しておいた方がいいでしょう。
短頭種気道症候群の対処法・対策
短頭種気道症候群に対する対策は主に2つ。症状の悪化を招かないような対策を講じるか、もしくは外科的な治療により物理的に呼吸を楽にするか。まずは手術を用いない対策を見ていきます。
短頭種気道症候群にかかっている犬は呼吸に抵抗がある状態。これを増悪させる要素として真っ先に挙げられるのが肥満や気温の上昇です。そのため、短頭種気道症候群の症状を和らげる対策として以下のことが考えられます。
- 太らせない・痩せさせる
- 室温を低めに設定する
- 高温時の散歩は避ける
- 過度な運動はさせない
- 興奮させない
- 首輪ではなくハーネスを使用する
短頭種気道症候群は鼻腔や喉、気道が狭いことにより起こる病気。肥満は脂肪により物理的に気道を狭めてしまうばかりか、ちょっとした運動においても体温が上昇しやすく多くの酸素が必要になるというリスクも。
そのため短頭種気道症候群の対策において肥満を予防・改善するというのは非常に重要な要素となります。また喉や軌道の負担を和らげるという点において首輪よりハーネス(胴輪)が適しています。
他の注意点としては、愛犬の体温を過度に上げないことに集約されます。夏の昼間はエアコンを使用する、昼間の散歩は避けド面の温度が下がった時間帯に行う、過度な運動や興奮は抑制するなど。
重度の短頭種気道症候群でなければ、これらを実践することにより重大な事態を避けることが可能となるでしょう。
ただしこれらはあくまでも対症療法であり根本的な解決には至っていない点に注意。当然ながらこれらは愛犬が天寿を全うするまで一生涯続ける必要があります。
短頭種気道症候群の治療法は?
前述したことは飼い主が行える対策であるのに対し、危険な状態での搬送や重篤な短頭種気道症候群では獣医師により治療が行われます。
今まさに呼吸困難を起こしているという場合にはステロイドによって気道の炎症を抑えたり酸素を吸入させたりといった内科的治療が行われます。
一方、短頭種気道症候群の恒久的な改善を目的にするなら外科的な治療しか方法はありません。
短頭種気道症候群の手術とは?
短頭種気道症候群の犬の空気の通り道を物理的に広げる方法として主に「外鼻孔拡大」や「軟口蓋切除」が行われます。
外鼻孔拡張術は簡単に言ってしまえば鼻の穴を大きくする手術。
外鼻孔が狭窄している傾向にある短頭種の鼻の一部を切除し外鼻孔を広げます。個体差により外鼻孔が極端に狭くなっている犬には有効な手段となります。
そしてもうひとつは軟口蓋切除術。
短頭種は非短頭種に比べ喉の奥にある“軟口蓋”が長いケースが目立ちます。これが気道を塞ぐことによって呼吸がしづらくなってしまうのです。この部分を切除することによって呼吸をしやすくするのが軟口蓋切除術。
鼻孔や軟口蓋の状態を確認した結果、両方の手術を行うことも。これにより生涯にわたって呼吸に悩まされる心配がなくなるでしょう。
短頭種気道症候群の手術は若年であればあるほど術後の経過が良好になるというデータがあります。1歳未満が最も予後が良いとも。短頭種の場合麻酔によるリスクも高い傾向にあるため、手術するなら早いに越したことはありません。
そのため、愛犬に短頭種気道症候群の兆候が見られた場合、「ブーブー言うのが普通の犬種だから」と納得せずすぐに動物病院に相談したほうがいいでしょう。
リスクはあるがそれでもかわいい短頭種
フレンチ・ブルドッグやパグ、シー・ズーといった鼻ぺちゃな犬種は短頭種気道症候群のみならず、皮膚疾患や眼疾患にかかりやすいなど他の犬種に比べ複数のリスクを抱えています。にもかかわらず価格は高い…
そのため短頭種を「ブサイク」と感じる人にとってこういった犬種を飼う心理というのは全く理解できないことでしょう。
しかし短頭種の魅力に取りつかれてしまうと「鼻ぺちゃしかありえない」となってしまうのです。実際私も大人になってパグを飼ってからは鼻ぺちゃ犬一筋になってしまいました。
しかし、やはりというかなんというか、呼吸器の不安は付きまといます。酷くないとはいえたまにブーブーと鼻を鳴らしていたり、豪快ないびきをかいていたり…そのため体重管理や温度管理は徹底しています。
不幸にして愛犬に短頭種気道症候群の症状がみられる場合は、一度動物病院で獣医師の見解を伺うようにしてください。早めの対策により命の危険を回避することができるはずです。
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